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短編のお話を書いてみました。
ご笑覧いただけましたら幸いです。
禁煙外来④
「ヤブ医者が!!!」
彼は叫んだ。衝動に乗せて医者の横面を拳で殴り倒し、飛びかかって椅子から引きずり下ろした。看護師が慌てて大声で誰かを呼ぶ。もう彼は自分を止められなかった。
殴りに殴り蹴りに蹴り、医者の頭や体を踏み潰した。こんなんじゃ足りねえ、もっと、もっとだ。俺の怒りを味わえ。
自分の惨めさに悔め。
「化け物め!地獄へ堕ちろ!!!」
床に倒れて血まみれで呻く医者を罵り、彼は目を血走らせながらその医者の太った首を絞め上げた。
借金の取り立てに追われる生活だって、こんなに苦しくはなかった。薬もギャンブルも酒も女も辞めた。それに追随する苦しみや憤りを、誰が分かってくれる?分かるはずない。
机の上の落書きだらけのカルテを破り捨て、ペン立てやオーディオ、机上にあるすべてを薙ぎ払い、叫び散らしながら暴れた。
彼の記憶はそこでプツリと途切れている。
気づけば見知らぬ場所にいた。両手両足を拘束され、彼はベッドに横たわっていた。看護師らしき人間が彼の両目に懐中電灯の光を当てた。
「拘束を解いてください」
言うと、看護師は「もう少し安静にしてからですね」と述べた。
看護師が出ていくと、次に警察が来た。警察は彼に、医者は外的な怪我はあるが、意識はあり無事であること、そして彼が傷害罪で逮捕されることを伝えた。
そして誰かを呼んだ。
呼ばれた誰かが、カーテンを開きおずおずと入ってきた。
それは彼の娘だった。
5年前に離婚した妻との間に生まれた、彼の、たった一人の、愛する娘だった。
彼が依存していたすべてを辞め、健全に生きていくならば、会わせてくれるというのが、元妻との約束だった。
「パパ」
涙が止まらなかった。
ああ、俺はこの瞬間のために頑張ってきたんだ。
健全になるために。5年もかけて。
つらかった。苦しかった。
人生なんかどこまでも真っ暗だと思った。でも耐えた。
この子のために。そう誓ったのだ。
名前を呼ぶと頷き、泣きながら微笑んでくれる。
優しい子に育ってくれたんだな。
それが、どうしようもなく嬉しかった。
ようやく我に帰る。
オレは………
深い闇の中に微かにゆらめく、たった一つの灯火を握りつぶしてしまったのか。
自分の手で。
「もう一度だけチャンスをあげる」
娘の後ろから聞こえたのは懐かしい元妻の声。
毎月はじめに届いていた、彼と社会を繋ぐ唯一の細い糸。
彼の元妻と娘の、小さな祈り。
刑務所を出たら、真っ当に生きよう。
元妻への借を返そう。5年分の大きな借を。
そしてもう一度、人生をやり直そう。
今度こそ。
ぼろぼろの肺で、彼はそう思った。
(おしまい。禁煙外来@ちょっと実話混じりでした。)
お読みいただきありがとうございました。
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