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実話に基づいた短編のお話です。
ご笑覧いただけましたら幸いです。
グレイトジャーニー①
「本当に都会というものは、人が多くて落ち着きませんね。」
早足で通り過ぎる人混みの中で、先生が呟くようにそう仰いました。「そうですね。」と言葉を返したものの、私の言葉は先生の耳には届かなかったようで、先生は相変わらず斜め下に目を落とし、俯いたままぼんやりとしておいででした。
先生は、ここからずいぶん離れた寂れた田舎町にお暮らしでした。しかし、ここ数年ずっと患っておられるご病気を、こちらの大きな大学病院で診てもらわなければなかったため、今日は片道二時間かけて、慣れない電車に乗ってこちらにいらしたのでした。
駅の清潔そうな広い玄関ホールに所在なげに佇み、晴れないお顔の先生は、今日はとてもお疲れのようでございました。
「電車のお時間は、何時ごろですか。」
尋ねると、
「十六時四十分ですよ」
と先生はそうお答えになりました。腕時計を確認すると、優に一時間半も待ち時間があります。
「先生、では、お食事はいかがですか。お昼はあまり食べていらっしゃらないのでしょう。ここの地下街に、ちょっと美味しいお店があるのです。私も小腹がすきました。ね、そうしましょう。」
私が一息にそういうと、先生はにわかに微笑んで頷かれました。「ではご案内します。」と張り切って私は、先生をエスコートすることにいたしました。
私は「嬉しい」と思いました。私は普段から先生に、以前お世話になっていたことへの恩返しをしたかったのです。正直なところ、私には先生に気に入られている自負がございましたので、美味しいものを食べて、私としばらくお話すれば、先生の淀んだ胸の内を多少なりとも晴らすことができるのは間違いのないことだと思いました。
実際、先生はわざと困ったようなお顔を作った後、
「不味かったらきみの顔面に胃の中全部吐き散らしますよ。」
と趣味の悪い冗談を、笑いながらおっしゃいました。
先生は、今日は本当にずいぶんお疲れのご様子でしたが、
そんな先生を私ならたくさん笑わせて差しあげられると思いました。
「やけに賑やかなお店ですね。」
人の息づく気配のない古びたお店を前に、先生が仰いました。
「見かけによらずですよ。ここのカレーがとっても美味しいんです。スープも。サイズが選べるので、小腹がすいた時なんかにありがたいお店なんですよ。」
私は自信たっぷりに言い、その時代遅れの丸いドアノブを回しました。
チリンチリンと音が鳴り、welcome と書かれている燻んだ看板が揺れて、煌びやかなアンティーク調の机椅子などがひしめく店内に私たちは入りました。
骨董を集める趣味はないものの、この集められた古家具の宝箱のような店内に先生は非常に驚いておいででした。そして、「やや、この古時計は…。」「この薬棚の風情のあること…ふむ。」などと呟きながら、ゆっくり店内をご覧になった後、奥の席へと向かわれました。
「このソファに座るのですか?」
「そうですよ。」
「こんなお店で本当にカレーが出てくるんですか?」
「見かけによらずと言ったでしょう。」
予想通り、目を丸くして訝る先生を見て、私は楽しく、また嬉しく思いました。
「いらっしゃいませ」
現れた老オーナーが静かにメニューを渡してくださいました。
有難うございます、と受け取った先生は、老オーナーに「メニューはこれだけですか。」と渋い顔でお尋ねになりました。
その顔の面白いこと!
「カレーとスープをお勧めします!」
「カレーとスープしか無いじゃないですか!」
「失礼な。コーヒーもありますよ。ちなみに、ホットかアイスか選べるんです!」
先生はまるで「してやられた!」というように呆れたふうにお笑いになりました。
メニューは三つ、「本日のカレー」「本日のスープ」「コーヒー」。このお店は、それだけで成り立っているのでした。
「三点セットだと五十円お得…」
「良心的ですね。」
「君の感覚を頼るといつもこうだ。」
「オーナーさんに失礼ですよ!」
「それもそうか!」
ははは、と先生はまた声をだしてお笑いになり、そしてお互い五十円お得な三点セットの小さいサイズを頼みました。一連の会話を聞いていたのかいないのか、老オーナーはにこやかに「かしこまりました。」と下がっていかれました。
「いいお店でしょう。」
「まあ、そうですね」
(明日へ続く)
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